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社会的インパクト債 オーストラリア編

事業レポート

社会的インパクト債 オーストラリア編

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イギリスで2010年に受刑者に対する再犯防止の案件がスタートしてから、そのシステムに注目され、今年から日本でも実験的案件が3件スタートした社会的インパクト債 (Social Impact Bond = SIB)。

前回ご紹介した各国の様々な社会的インパクト投資の動向の中で、今回は成果を出し続けているオーストラリアの社会的インパクト債に着目したいと思います。

 

オーストラリアは南半球に位置し、人口約2400万人からなる大きな島国です。元々は先住民族アボリジニーが5万年以上前から住んでいましたが、18~19世紀にかけて英国の罪人とされる人達が流刑された場所として白人の移民がスタートし、現在では人口の三分の一は海外で生まれたというほどの多文化な移民大国。資源が豊富なこともあり比較的豊かな国で、CIAやIMFによればGDP一人当たり4万ドルを超え、世界で5位なのです。(日本は20位前後)

 

そんな比較的豊かなオーストラリアは、寄付文化・社会的インパクト投資のムーブメントも進んでおり、イギリスとアメリカの次に三か国目としてSIBの取り組みを開始しました。EU諸国のドイツ・オランダ・ベルギーよりも早かったのです。そのような実績が認められG7外の唯一の国として、G8 Social Impact Investment Taskforceの一員となり活動を進めています。

オーストラリアのSIB

オーストラリアでは、社会的インパクト債をSocial Benefit Bond (SBB)と呼び、初案件“Newpin SBB”は2013年の7月から7年間を目途にスタート。

 

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州(以下NSW)での初案件は家庭外保護対象の子供たちやその恐れがある子供のいる家庭の親子関係を改善し家庭外保護サービスから「家庭復帰」を目指すことです。開始当初、NSWでは家庭外保護対象の子供が推定61,000人、児童保護施設内の子供は18,000程いたといわれており、家族と離れて暮らす子供たちの精神面や全体的な成長の伸び悩み、進路だけでなく犯罪率や妊娠率の高さも懸念されていました。児童保護施設に子供が一人いると一年間で、NSW州政府は一人当たりA$37,000(約350万円)のコストがかかり、これは一年間でA$666million (630億円)にも上ります。それらを踏まえて、児童の家庭復帰と将来的な社会的コストの削減のためにSBBの案件が成立しました。

SBBのプレーヤー

この案件に関与する団体は以下の図の通りです。

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Social Ventures Australia (1)が投資家 (2)から資金を募り、サービスプロバイダーであるUniting Care Burnside (3)がNewpin (New Parenting and Infant Network)というカウンセリングプログラムを提供。そのサービスの成果が第三者である評価者Ernest and Young(4)により査証され、成果のレベル(児童復帰の数など)によって、もともとの政府 (5)の社会的予算からリターンとして、投資家へ戻ってくる。(今回このプログラムでは、行政が初期費用の一部を負担しているため、投資家のリスクを多少軽減する狙いです。)

これまでの成果

2014年、7月に発表された年次報告書*によると、228人の児童を含む136世帯がサービスを受け、28人の子供が家庭復帰し、投資家には15か月間のプログラム成果として、7.5%がリターン率として戻ってきました(のち12か月周期となる)。今年、2年目に入り2015年7月に発表された年次報告書によれば、113世帯がNewpinサービスを受け、42人の子供が家庭復帰しており家庭復帰率はまさに累計約61.6%となり、リターン率も8.9%と上昇し、投資家を喜ばせました。

もちろん、中には児童保護施設に戻るケースが今年度8人おり、家庭復帰をする前にNewpinプログラムを去ってしまう児童も16人(前年度26)おりました。

全体的に、数字を見てみると2014年の利息は合計A$655,890 (約6100万)、そして今年度の利息はA$748,897(6900万)と、一年間で約864万円のリターンが投資家へ渡りました。

 

どうして家庭復帰率が高いの?と気になるところですが、Newpinプログラムの特徴は

  1. 親への育児教育
  2. 親のためのグループセラピー
  3. 児童を対象としたコミュニケーションや感情的知性の向上のための活動
  4. Newpin卒業生からのメンタリング

が含まれます。

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(出典:Social Ventures Australia 2013)

特に2番のグループセラピーでは親の幼少期までさかのぼり、実体験と現在の育児状況を照らし合わせ、これからの育児を改善していく話し合いの場を毎週設けていることが効果的と言われているようです。

今後の展望

家庭復帰率と数値化してしまうと見えないものもありますが、こういったプログラムで家庭復帰する児童と親がちゃんと仲良く暮らし、暖かい社会の形成がSBBの目的でもあります。

Social Ventures AustraliaのImpact InvestingディレクターのIan Learmonthは、SBBの成功が、国内の社会福祉サービス資金調達の適応性を物語ったと話し、SIB/SBBの特徴とされている「成果報酬型」を改めて強調しました。

 

現在、オーストラリアにはSIBの事例がNewpinを含めてNSWに2つあるのみですが、この成功事例をもとに、他の州政府がこれから前向きに増やすよう計画中です。

次回もNewpin SBBの事例のような、前向きな成果を出している世界での様々な事例を紹介します。

 

(*オーストラリアの財政年度は毎年6月区切りです。)

 

参考リンク:

 

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